岡倉天心が自ら図面を引いた住まい
茨城大学五浦美術文化研究所岡倉天心旧居(研究室)は、茨城県北茨城市大津町五浦にある明治38年(1905年)建築の木造平屋建住宅で、平成15年(2003年)7月1日に登録有形文化財に登録された。
建物はほぼ真東を向き、正面に太平洋が広がる。岡倉天心(本名覚三)は明治31年(1898年)に東京美術学校長を辞したのち日本美術院を興し、明治36年(1903年)5月ごろ、画家の飛田周山に案内されてこの海岸を初めて訪れた。気に入ったのだろう、二年後には自分の建物をここに構えている。図面は天心自身が引き、施工にあたったのは地元の棟梁小倉源蔵だった。
屋根の勾配はゆるい。現在はスレートで葺かれているが、もとは柿葺であった。間取りは研究施設のそれではなく、あくまで住まいのものである。中心に客間と居間を置き、玄関を北側に、勝手を北西に振り分ける。南西の隅には当初、奥の間があった。登録上の建築面積は159平方メートル。
明治39年(1906年)、天心は日本美術院そのものを五浦へ移す。横山大観、菱田春草、下村観山、木村武山が家族を連れて移り住み、この海辺で制作に打ち込んだ。
登録が評価しているもの
茨城大学五浦美術文化研究所岡倉天心旧居は、登録番号第08-0079号として、造形の規範となっているものという基準で登録されている。登録有形文化財の制度は使い続けられている建物を対象とするもので、この住宅も展示物になったことはない。
特筆すべき点が二つある。ひとつは設計者である。住み手自身が図面を引いた住宅そのものが少なく、まして日本美術の価値を国外に向けて説き続けた人物の手になる例はほとんど残っていない。もうひとつは材料だ。この土地にはかつて観浦楼という料亭が建っており、その古材が転用されている。完成した日から中古の部材でできていた建物だということになる。その節約が、かえって内部に抑制のきいた数寄屋造の気配を与えている。
天心の没後、住まいは遺族のものとなり、昭和30年(1955年)、天心偉績顕彰会の理事長だった横山大観からの申し出を受けて茨城大学が譲り受けた。研究所はこれを管理するために置かれている。
いま建っているものは、天心が知っていた家より小さい。大正2年(1913年)の天心の死後に改築され、往時のおよそ半分の広さになった。敷地のほうは平成26年(2014年)に別枠で評価され、天心が手を入れた庭園と眼下の入江を含めて「岡倉天心旧宅・庭園及び大五浦・小五浦」の名称で国の登録記念物となっている。
海のそばであることの代償もある。2011年の東日本大震災の津波は、この住宅の床下まで水を送り込んで損傷を残した。岩場の先にあった六角堂は流出している。
現地で見ておきたいところ
門から苔むした小道を下っていくと視界が開ける。右手に茨城大学五浦美術文化研究所岡倉天心旧居、左手に海。この二つの関係こそが建物の眼目で、天心は水平線がいちばんよく働く位置に主要な部屋を置いた。
正面の芝地にも目を向けたい。天心は冬をボストン美術館で過ごしており、その地から芝の種を持ち帰ってここに蒔いたと伝わる。明治の日本で、和風の木造住宅の前に芝生が広がる光景は珍しい。一年の半分を地球の裏側で過ごした人物の感覚がそこに出ている。『茶の本』も、ボストンと五浦を往復する日々のなかで書かれた。
住宅のかたわらには、横山大観の揮毫による「亜細亜は一な里」の石碑が立つ。
海側から軒の線と屋根の浅い勾配を眺めてみてほしい。スレートは後年の葺き替えなので、いま見えている輪郭は1905年当時のものとは少し違う。もとが木羽葺だったと知っていれば、その差は読み取れる。
見学の方法
茨城大学五浦美術文化研究所岡倉天心旧居は研究所の敷地内にあり、入場料400円で一般に公開されている。20名以上の団体と70歳以上の方は350円、中学生以下は無料。開館時間は午前9時30分から午後4時30分まで、入場は午後4時までとなっている。休館日は原則として月曜日で、月曜が祝日の場合は翌日が休みになる。研究所は開館カレンダーを公開しており、荒天や工事による臨時休館もあるため、遠方から向かうときは事前に確認しておきたい。
行き方はJR常磐線の大津港駅が最寄りで、タクシーで約10分。北茨城市の巡回バスに五浦線があるが、運行日と便数が限られる。
撮影については、敷地内で記念に写真を撮る人は多い。ただし茨城大学は、所有する建物の撮影と、その画像や映像の掲載について事前の申請を求めている。理由として挙げられているのは安全の確保と文化財の保全である。私的な記録を超える用途なら、先に研究所へ連絡してほしい。
内部に入れるかどうかは公式ページに記載がない。到着したら長屋門の受付で尋ねるのが早い。下の六角堂は日没から午後9時までライトアップされる。
Q&A
- 茨城大学五浦美術文化研究所岡倉天心旧居は見学できますか。入場料と開館時間は。
- 研究所の敷地内で公開されています。開館は午前9時30分から午後4時30分まで、入場は午後4時まで。原則月曜休館です。入場料は400円、20名以上の団体と70歳以上の方は350円、中学生以下は無料です。
- 五浦の岡倉天心旧居は誰が設計したのですか。
- 岡倉天心自身です。施工は地元の棟梁小倉源蔵が担当し、明治38年(1905年)に完成しました。
- 岡倉天心旧居へは東京からどう行きますか。
- JR常磐線で大津港駅まで行き、タクシーで約10分です。北茨城市の巡回バス五浦線もありますが本数が少ないので、時刻を確かめてから利用してください。
- 岡倉天心旧居と六角堂は同じ建物ですか。
- 別の建物です。旧居は斜面の上に建つ住宅、六角堂は波打ち際の岩場に建つ小さな六角形の堂で、同じ敷地内を数分歩いた先にあります。
- 茨城大学五浦美術文化研究所岡倉天心旧居を撮影してもよいですか。
- 個人的な撮影は行われていますが、茨城大学は建物の撮影と画像・映像の掲載について事前申請を求めています。私的な記録以外の用途では研究所に問い合わせてください。
基本データ
| 名称 | 茨城大学五浦美術文化研究所岡倉天心旧居(研究室) |
|---|---|
| 所在地 | 茨城県北茨城市大津町五浦727-2 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物) |
| 指定年 | 平成15年(2003年)7月1日登録 |
| 員数 | 1棟 |
| 寸法 | 木造平屋建、スレート葺、建築面積159平方メートル |
| 所有者 | 国立大学法人茨城大学 |
| 公開状況 | 五浦美術文化研究所の敷地内で公開。午前9時30分から午後4時30分、入場は午後4時まで、原則月曜休館。入場料400円 |
参考文献
- 文化庁 国指定文化財等データベース「茨城大学五浦美術文化研究所岡倉天心旧居(研究室)」
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00003357
- 文化遺産オンライン「岡倉天心旧宅・庭園及び大五浦・小五浦」
- https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/376514
- 茨城県教育委員会 いばらきの文化財「茨城大学五浦美術文化研究所岡倉天心旧居ほか1棟」
- https://kyoiku.pref.ibaraki.jp/bunkazai/bunkazai-registered-6400/
- 茨城大学「茨城大学五浦美術文化研究所」
- https://www.ibaraki.ac.jp/m/generalinfo/institute/izura/index.html
最終更新日: 2026.09.05