江戸と近代の堂が並ぶ總持寺祖院の重要文化財16棟
總持寺祖院は、石川県輪島市門前町門前にある曹洞宗の寺院の建造物群で、万治4年(1661年)の白山社本殿から昭和9年(1934年)の山門までの16棟が、令和6年(2024年)12月9日に一括して国の重要文化財に指定された。指定には附として筋塀1棟も含まれる。
16棟は大きく二つの時代に分かれる。一つは江戸時代に建てられた8棟で、白山社本殿・経蔵・伝燈院御霊屋・慈雲閣観音堂・放光堂・白山蔵・三樹松関・裏門がこれにあたる。寺によれば、明治31年(1898年)の火災では伝燈院・慈雲閣・経蔵などが焼け残った。もう一つは火災のあと祖院として再興する過程で建てられた大正から昭和初期の建物で、大祖堂・仏殿・山門のほか、鐘鼓楼と回廊、慧心廊、玄風廊、伝燈院唐門が含まれる。
この指定の公式な名称は「總持寺祖院」の一件で、16棟はその各棟としてデータベースに記載されている。總持寺祖院の香積台・禅悦廊・白山井戸は文化財保護法の登録制度による別の物件で、この指定には入っていない。
總持寺祖院の16棟が重要文化財に指定された理由
指定基準は「意匠的に優秀なもの」と「歴史的価値の高いもの」の2項目である。文化庁の解説は、明治の大火のあと横浜へ寺地を移した曹洞宗大本山總持寺の開創の地に、別院として再興した寺院の伽藍と位置づけている。そのうえで、大本山の移転後も同等の寺格を保ち、近世以来の規模と構成を受け継いだこと、その後の被災を乗り越えて、近世と近代の堂舎が混在する再興時の景観が現在まで保たれていることを評価した。
個々の建物では、法堂と祖師堂を兼ねる大祖堂の広い内部空間と細部の意匠、曹洞宗の伝統的な本堂の平面をもつ客殿を仏殿に転用した点、豪壮で細部の装飾にすぐれた山門の二重門が挙げられている。回廊のまわりに近世の経蔵や白山社本殿が残り、全体で一つの大きな伽藍をなすことも評価の柱である。
輪島市によれば、この指定によって石川県指定の経蔵、輪島市指定の慈雲閣と伝燈院、国の登録制度で保護されていた大祖堂・仏殿・山門などがまとめて重要文化財になった。總持寺祖院の建物は、それまで国・県・市の別々の制度で守られていたことになる。
總持寺祖院の中心をなす大祖堂・仏殿・山門
最大の建物は大正2年(1913年)の大祖堂で、桁行30.3メートル、梁間23.6メートルの一重の入母屋造に、軒唐破風造の向拝を正面に付け、屋根は桟瓦葺とする。寺の案内によると総欅造りで、正面に瑩山紹瑾、左右に道元と二祖の峨山を祀る。欄間には瑩山の誕生から諸国を巡る生涯までの物語が刻まれ、山形県の名工が親子二代にわたって彫り上げたと寺は伝えている。
仏殿も大正2年(1913年)の建築で、桁行24.9メートル、梁間18.5メートルの入母屋造である。本尊の釈迦牟尼仏を中央に、大権修理菩薩と達磨大師を左右に配する。客殿を兼ねた相見の間の奥には、山岡鉄舟の書が掛かる。もとが客殿の平面であることは文化庁の解説が指摘する点で、仏堂でありながら書院風の構えを残している。
山門は三間三戸の二階二重門で、桁行12.7メートル、梁間7.3メートルの入母屋造に、左右の繋塀と山廊が付く。寺は総欅造りで高さ17.4メートルとし、楼上に観音菩薩と五百羅漢を祀る。2階正面には前田利為の筆になる「諸嶽山」の額が掛かる。文化庁は年代を昭和9年(1934年)とし、寺は昭和7年(1932年)の完成としている。
總持寺祖院の堂を結ぶ回廊と鐘鼓楼
大きな堂のあいだは、屋根を両側に流す両下造の廊下がつないでいる。仏殿と大祖堂を結ぶ慧心廊は大正2年(1913年)頃の建物で、折れ曲がりながら延長31.0メートルに達する。大正13年(1924年)頃の玄風廊は延長62.2メートルと最も長く、北面に切妻造の突出部が付く。鐘鼓楼に付く回廊も大正13年頃のもので、延長は19.6メートルある。
鐘鼓楼は大正2年(1913年)頃の建物で、一辺3.6メートルの入母屋造に、裾を広げた袴腰を付ける。伝燈院唐門も同じ大正2年の建築で、向唐門の左右に袖塀を付けている。廊下で堂を結び、要所に門と鐘鼓楼を置く構成によって、總持寺祖院の伽藍は一続きの空間としてまとまっている。
總持寺祖院に残る江戸時代の建物
境内で最も古いのは、万治4年(1661年)の白山社本殿である。一間社流造で屋根は柿葺とする。令和7年(2025年)10月2日には、地震のあと初めての白山大祭がこの社で営まれた。寛保3年(1743年)の経蔵は一辺10.3メートルの宝形造で、裳階を付けたこけら葺の屋根の下に、八角形の輪蔵を収める。
瑩山紹瑾の霊廟である伝燈院御霊屋は文政5年(1822年)の宝形造で、銅板葺の小さな堂である。慈雲閣観音堂は文化8年(1811年)の入母屋造で、寺によると總持寺が開かれる前からこの地にあったとされる僧形観世音菩薩を祀り、例年7月17日の観音大祭にだけ開帳してきた。放光堂は文化6年(1809年)の建物を明治44年(1911年)に移したもので、現在は納骨堂として使われている。
白山蔵は江戸時代後期頃の土蔵造の二階建で、文政4年(1821年)に移築された。入口の三樹松関は享和3年(1803年)頃の高麗門で、左右に土塀が延びる。裏門は文政6年(1823年)の一間薬医門で、明治後期から大正前期頃に現在地へ移されている。江戸時代の8棟のうち放光堂・白山蔵・裏門の3棟は移築を経ており、建てられた場所から動かされて今の伽藍に組み込まれている。
令和6年能登半島地震の被害と總持寺祖院の16棟の修理計画
指定の答申が出たのは、令和6年(2024年)1月1日の地震から10か月後のことだった。寺が公表した被害状況では、山門・大祖堂・仏殿・慧心廊・玄風廊・鐘鼓楼などに被害が及び、大祖堂の裏山では大規模な地滑りが起きている。
寺の震災復興本部が示した計画では、16棟の保存修理は概算約31億円で、3期に分けて進める。第1期(令和7年・2025年2月〜令和13年・2031年3月)は大祖堂・放光堂・三樹松関・白山蔵・筋塀・裏門と、玄風廊の一部、山門の本体を扱う。第2期(令和10年・2028年4月〜令和14年・2032年12月)は仏殿・伝燈院御霊屋・伝燈院唐門・慈雲閣観音堂・慧心廊、第3期(令和13年・2031年4月〜令和16年・2034年3月)は白山社本殿・鐘鼓楼及び回廊・山門の南翼廊・経蔵・玄風廊である。
工事はすでに始まっている。令和7年(2025年)秋には、大祖堂の工事と裏山の法面復旧の作業通路をつくるため、玄風廊の南北部分の解体が始まった。調査で仏殿の柱の傷みが当初の見込みより大きいと分かったため、大祖堂と仏殿の工事の順番を入れ替え、令和8年(2026年)2月には仏殿ほかの解体格納工事の契約が結ばれている。
總持寺祖院の16棟の見学
總持寺祖院の境内は有料で拝観でき、16棟の多くは拝観できる区域から外観を見ることになる。寺の境内案内は法堂(大祖堂)・山門・仏殿・経蔵を拝観の見どころに挙げているが、地震のあとは修理中の建物のまわりや回廊に立ち入れない場所がある。玄風廊のように解体されて見られない建物もあり、仏殿もこれから解体格納調査に入る。
どの建物の内部に入れるかは工事の進み具合で変わるため、出かける前に寺へ確かめておきたい。撮影の決まりは公式サイトに記載がないので、受付で尋ねるとよい。境内への行き方と拝観時間・拝観料は總持寺祖院のグループページにまとめてある。
Q&A
- 總持寺祖院はいつ重要文化財に指定されましたか?
- 令和6年(2024年)12月9日に、建造物16棟が一括して重要文化財に指定されました。同年10月18日の文化審議会の答申を受けたもので、附として筋塀1棟も含まれます。
- 總持寺祖院の重要文化財16棟にはどの建物が含まれますか?
- 大祖堂・仏殿・山門・鐘鼓楼・回廊・放光堂・慧心廊・玄風廊・伝燈院御霊屋・伝燈院唐門・慈雲閣観音堂・白山社本殿・白山蔵・経蔵・三樹松関・裏門の16棟です。香積台・禅悦廊・白山井戸は登録制度による別の物件で、この指定には含まれません。
- 總持寺祖院で最も古い建物はどれですか?
- 万治4年(1661年)の白山社本殿です。寛保3年(1743年)の経蔵など、江戸時代に建てられた建物が全部で8棟あります。
- 總持寺祖院の大祖堂や仏殿の中は見学できますか?
- 境内は有料で拝観できますが、能登半島地震の修理工事のため立ち入れない区域があり、仏殿は解体格納調査に入る予定です。内部に入れるかは工事の進み具合で変わるので、事前に寺へ確認してください。
- 總持寺祖院の修理はいつ終わる予定ですか?
- 寺の震災復興本部の計画では、重要文化財16棟の修理は令和7年(2025年)2月から令和16年(2034年)3月まで、3期に分けて行われます。計画は工事の状況によって見直されることがあります。
基本情報
| 名称 | 總持寺祖院 |
|---|---|
| 所在地 | 石川県輪島市門前町門前 |
| 指定区分 | 重要文化財(建造物) |
| 指定年 | 令和6年(2024年)12月9日指定 |
| 員数 | 16棟(附 筋塀1棟) |
| 寸法 | 大祖堂 桁行30.3メートル・梁間23.6メートル、仏殿 桁行24.9メートル・梁間18.5メートルほか |
| 所有者 | 宗教法人大本山總持寺祖院 |
| 公開状況 | 境内の拝観は有料(大人500円)。修理中の建物の周辺に立入制限あり |
参考文献
- 国指定文化財等データベース(文化庁):總持寺祖院 大祖堂
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/102/00005607
- 国指定文化財等データベース(文化庁):總持寺祖院 仏殿
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/102/00005608
- 国指定文化財等データベース(文化庁):總持寺祖院 山門
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/102/00005609
- 国指定文化財等データベース(文化庁):總持寺祖院 鐘鼓楼及び回廊(鐘鼓楼)
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/102/00005610
- 国指定文化財等データベース(文化庁):總持寺祖院 鐘鼓楼及び回廊(回廊)
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/102/00005611
- 国指定文化財等データベース(文化庁):總持寺祖院 放光堂
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/102/00005612
- 国指定文化財等データベース(文化庁):總持寺祖院 慧心廊
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/102/00005613
- 国指定文化財等データベース(文化庁):總持寺祖院 玄風廊
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/102/00005614
- 国指定文化財等データベース(文化庁):總持寺祖院 伝燈院御霊屋
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/102/00005615
- 国指定文化財等データベース(文化庁):總持寺祖院 伝燈院唐門
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/102/00005616
- 国指定文化財等データベース(文化庁):總持寺祖院 慈雲閣観音堂
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/102/00005617
- 国指定文化財等データベース(文化庁):總持寺祖院 白山社本殿
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/102/00005618
- 国指定文化財等データベース(文化庁):總持寺祖院 白山蔵
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/102/00005619
- 国指定文化財等データベース(文化庁):總持寺祖院 経蔵
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/102/00005620
- 国指定文化財等データベース(文化庁):總持寺祖院 三樹松関
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/102/00005621
- 国指定文化財等データベース(文化庁):總持寺祖院 裏門
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/102/00005622
- 輪島市:大本山總持寺祖院が、国の【重要文化財】に指定されました
- https://www.city.wajima.ishikawa.jp/article/2024101000026/
- 大本山總持寺祖院:境内のご案内
- https://noto-soin.jp/visit/keidai/
- 大本山總持寺祖院:總持寺祖院『重要文化財』の指定について
- https://noto-soin.jp/news/81/
- 大本山總持寺祖院:能登半島地震における被害の状況について
- https://noto-soin.jp/news/71/
- 大本山總持寺祖院:7月17日慈雲閣観音大祭
- https://noto-soin.jp/news/67/
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最終更新日: 2026.10.04
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