墓地から移されてきた方一間の鐘楼
実際寺鐘楼は、岡山県倉敷市中島にある真言宗寺院・実際寺の境内に建つ鐘楼で、棟札から明治12年(1879年)の建築と分かり、令和元年(2019年)12月5日に国の登録有形文化財(建造物)に登録された。
位置は境内の南寄りで、本堂から見て南東にあたる。平面は方一間、つまり柱4本で囲んだ1間四方で、面積は3.8平方メートル。屋根は入母屋造の本瓦葺である。壁を持たない吹き放しの建物なので、柱と貫と組物の組み方がそのまま外から見える。
実際寺鐘楼は、はじめからこの場所にあったわけではない。岡山県の資料によると、大正15年(1926年)の修理の際に、境内西の墓地から現在地へ移築された。明治12年に建てられてから47年ほどは墓地の側に立っていたことになる。さらに文化庁の解説は、近世の部材を再用した鐘楼だと記す。明治の建築でありながら、江戸時代の材を含んでいる。
実際寺鐘楼が登録された理由
実際寺鐘楼は、登録番号33-0332、第94回登録で、「国土の歴史的景観に寄与しているもの」という基準で登録された。同じ日に実際寺の6件が登録されており、実際寺鐘楼はそのうちの1件である。
小さな鐘楼だが、作りは簡略ではない。柱を内側へ傾けて立てる四方転び、3段に分けた貫、柱上の三斗組と、鐘楼として本格的な形式を一通り備えている。境内の南寄りにあって山門から入るとすぐ視界に入る位置にあり、寺の景観を形づくる一棟として登録されたことになる。
移築の経緯にも意味がある。棟札があるので建築年は明治12年と確定しており、大正15年の移築も記録で追える。どこで建ち、いつ、なぜ動いたかが分かる鐘楼は、境内の変遷をたどる手がかりになる。
東側だけ一段低い腰貫
実際寺鐘楼でいちばん面白いのは、貫の高さがそろっていないことだ。文化庁の解説によると、四方転びの角柱を、下から腰貫、飛貫、頭貫の3段の貫で固めている。そのうち腰貫だけは、撞木を吊る東側で一段下げてある。
撞木は鐘をつくための横木で、綱で吊られ、前後に振って鐘に当てる。東側の腰貫が他の3面と同じ高さにあれば、撞木を引く人の体や腕に近い位置に横材が来てしまう。一段下げたのは、鐘をつく動作の邪魔にならないようにするための工夫と考えられる。四面の見た目をそろえるより、使い勝手を優先した判断である。
柱の上では、肘木を枠状に組んだ枠肘木に三つの斗を載せた三斗組が桁を受ける。軒は垂木を一段だけ、間隔を広くとって並べる一軒疎垂木。入母屋の妻は菱格子で飾られている。どれも鐘楼の標準的な語彙だが、3.8平方メートルという小ささの中に過不足なく収まっている。
岡山県観光連盟の紹介記事によれば、実際寺鐘楼には龍の飾りも付けられているという。
実際寺鐘楼の見学
実際寺鐘楼は吹き放しなので、周囲をぐるりと回れば構造がひと目で分かる。まず南から全体の姿を見て、柱が内側へ傾いていることを確かめたい。次に東側へ回ると、腰貫が一段下がっている様子と撞木の位置関係がよく分かる。山門から入ると、左手の奥に見える建物である。
岡山県の文化財紹介では、実際寺の建物の公開状況は「外観のみ」とされている。鐘は寺が勤行や行事で使うものなので、許しなく撞木に触れたり鐘をついたりしないこと。撮影について寺の公式な規定は公表されていないため、写真を撮る前に寺の方へ一声かけるとよい。境内への行き方は実際寺のページにまとめてある。
Q&A
- 実際寺鐘楼はいつ建てられ、いつ登録有形文化財になりましたか?
- 棟札から明治12年(1879年)の建築と分かっています。令和元年(2019年)12月5日に国の登録有形文化財(建造物)に登録されました。登録番号は33-0332です。
- 実際寺鐘楼は移築されたものですか?
- はい。岡山県の資料によると、大正15年(1926年)の修理の際に境内西の墓地から現在地へ移されました。文化庁の解説は、近世の部材を再用した鐘楼だとしています。
- 実際寺鐘楼の腰貫が東側だけ低いのはなぜですか?
- 文化庁の解説によると、撞木を吊る東側の腰貫を一段下げています。撞木を引いて鐘をつく動作の妨げにならないようにしたものと考えられます。
- 実際寺鐘楼の鐘をついてもよいですか?
- 鐘は寺が使うものです。公開状況は「外観のみ」とされているので、許しなく撞木に触れたり鐘をついたりしないでください。見学や撮影の前には寺の方に一声かけるのが望ましいでしょう。
- 実際寺鐘楼の大きさと形式を教えてください。
- 方一間、面積3.8平方メートルの木造の鐘楼で、屋根は入母屋造の本瓦葺です。四方転びの角柱を3段の貫で固め、柱上は枠肘木の三斗組、軒は一軒疎垂木、妻は菱格子です。
基本情報
| 名称 | 実際寺鐘楼(じっさいじしょうろう) |
|---|---|
| 所在地 | 岡山県倉敷市中島字村内北町516 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物)/登録番号 33-0332 |
| 指定年 | 令和元年(2019年)12月5日 登録 |
| 員数 | 1棟 |
| 寸法 | 木造、瓦葺、面積3.8平方メートル、方1間 |
| 所有者 | 宗教法人実際寺 |
| 公開状況 | 外観のみ見学可 |
参考文献
- 国指定文化財等データベース(文化庁)実際寺鐘楼
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00013184
- 岡山県「国の登録有形文化財(建造物)の登録について」答申資料(実際寺本堂、客殿、鐘楼、納屋、山門、外塀及び石垣)
- https://www.pref.okayama.jp/uploaded/attachment/307898.pdf
- 岡山県 文化財紹介「実際寺本堂、客殿、鐘楼、納屋、山門、外塀及び石垣」
- https://www.pref.okayama.jp/uploaded/attachment/266624.pdf
- 岡山県観光連盟「匠の技が光る!国登録有形文化財をもつ岡山の寺院おすすめ8選」
- https://www.okayama-kanko.jp/okatabi/843/page
最終更新日: 2026.09.24