御所の内侍所を移したと伝わる社殿

水無瀬神宮本殿は、大阪府三島郡島本町広瀬の水無瀬神宮にある江戸時代前期の社殿で、平成28年(2016年)に国の登録有形文化財に登録された。祭神の後鳥羽天皇・土御門天皇・順徳天皇を祀る、境内でもっとも奥の建物である。

水無瀬神宮と島本町はいずれも、この本殿を明正天皇の内侍所を移築したものと伝える。内侍所は宮中で三種の神器のひとつである神鏡を安置した建物で、明正天皇の在位は寛永6年(1629年)から寛永20年(1643年)にあたる。大阪府建築士事務所協会の会報は、京都御所の旧内侍所の材を用いて寛永年間に移したとしている。文化庁のデータベースは年代を江戸前期(1615〜1661年)とし、伝承の時期と矛盾しない。

宮中の建物が神社の本殿になった経緯を示す文書は、公開されている資料の範囲では確認できなかった。水無瀬神宮本殿の由来は、あくまで伝えとして受け取っておきたい。

「簡素な意匠に格調」という評価

水無瀬神宮本殿は、平成28年(2016年)8月1日に登録有形文化財となった(登録番号27-0642)。登録基準は「造形の規範となっているもの」である。島本町の解説は、江戸前期にさかのぼる宮殿建築に由来する建物であることを評価の理由に挙げている。

文化庁の解説は、水無瀬神宮本殿を簡素な意匠に格調を備えた社殿とまとめる。彫刻で飾り立てた本殿ではない。舟肘木で桁を受け、軒は垂木とするだけで、組物も最小限にとどめている。そのかわり、軒の垂木を細かい間隔で二段に並べ、軒裏の密度で建物の格を示している。

神社の本殿として見ると、水無瀬神宮本殿の形は一風変わっている。屋根は入母屋造で、神社に多い流造や春日造とは系統が違う。宮中の建物から移したという伝えは、この屋根の形と食い違わない。

水無瀬神宮本殿の見どころ

水無瀬神宮本殿は桁行3間、梁間2間で、建築面積は89平方メートル。西を向いて建ち、四方に縁を回して、縁の奥の端に脇障子を立てる。正面には浜床を設け、正面と側面に板唐戸を開く。内部は内陣と外陣に分かれ、外陣の天井は格子を細かく組んだ格天井である。

屋根は何度か葺き替えられてきた。水無瀬神宮の由緒によると、古くは瓦葺きだったが、昭和4年(1929年)に檜皮葺に改め、昭和49年(1974年)に現在の銅板葺になった。御所の建物として造られたときの屋根と、いま見える屋根は材料が違う。

足元にも目を向けたい。島本町の解説では、水無瀬神宮本殿は亀腹の基壇に据えた土台の上に建ち、周囲には雨落溝がめぐる。敷地は三方を瓦葺きの築地塀5条で囲み、背面の中央に門を開く。拝殿の奥にもうひとつ塀で区切られた空間があり、本殿はその中心に置かれている。

水無瀬神宮本殿の見学方法

水無瀬神宮本殿は祭神を祀る社殿で、内部は公開されていない。参拝者が立てるのは拝殿の前までで、本殿は拝殿と塀の奥にあるため、建物の全体を正面から見ることはできない。大阪府建築士事務所協会の会報も、拝殿の後ろに控える本殿は全貌を拝めないと書いている。

境内から見える水無瀬神宮本殿の姿は、拝殿や塀の向こうに銅板葺の屋根がのぞく程度と考えておきたい。撮影の可否について神宮は公式サイトで案内していないため、社殿を撮影するときは社務所に確かめておきたい。境内への行き方と参拝の時間は、水無瀬神宮のページにまとめてある。

Q&A

Q水無瀬神宮本殿はいつ、どこから移された建物ですか?
A水無瀬神宮と島本町は、明正天皇(在位1629〜1643年)の内侍所を移築したものと伝えています。文化庁のデータベースでは江戸前期(1615〜1661年)の建築です。移築を記した文書は確認できておらず、伝承として扱われています。
Q水無瀬神宮本殿はなぜ登録有形文化財になったのですか?
A簡素な意匠に格調を備え、江戸前期にさかのぼる宮殿建築に由来する社殿であることから、「造形の規範となっているもの」として平成28年(2016年)に登録されました。
Q水無瀬神宮本殿の中に入ったり、近くで見たりできますか?
A内部は公開されていません。参拝は拝殿の前で行い、本殿は拝殿と塀の奥にあるため、全体を見ることはできません。見えるのは拝殿や塀の向こうの屋根の一部に限られます。
Q水無瀬神宮本殿の屋根はもとから銅板葺ですか?
Aいいえ。神宮の由緒では、古くは瓦葺きで、昭和4年(1929年)に檜皮葺、昭和49年(1974年)に銅板葺に改められました。
Q水無瀬神宮本殿の大きさと形式は?
A桁行3間、梁間2間、建築面積89平方メートルの木造平屋建てで、屋根は入母屋造です。四方に縁を回し、正面に浜床を設けています。

基本情報

名称水無瀬神宮本殿
所在地大阪府三島郡島本町広瀬三丁目10-24
指定区分登録有形文化財(建造物)
指定年平成28年(2016年)登録
員数1棟
寸法建築面積89平方メートル(桁行3間、梁間2間)
所有者宗教法人水無瀬神宮
公開状況内部非公開(境内は24時間参拝可)

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁):水無瀬神宮本殿
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00011156
文化遺産オンライン:水無瀬神宮本殿
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/284183
水無瀬神宮:御社殿(登録文化財)
https://www.minasejingu.jp/goshaden.html
水無瀬神宮:神宮について
https://www.minasejingu.jp/info.html
島本町:島本町の文化財
https://www.town.shimamoto.lg.jp/site/rekishi-bunka/2412.html
島本町:島本の文化財 第9号 水無瀬神宮(PDF)
https://www.town.shimamoto.lg.jp/uploaded/attachment/3760.pdf
大阪府建築士事務所協会:建築人 2007年10月号 まちあるき 水無瀬神宮(PDF)
https://www.aba-osakafu.or.jp/chiiki-gr/mishimano/kenchikujin/mishimano_tiiki0710.pdf

最終更新日: 2026.10.02