天文3年、建築として造られた箱
医王寺本堂内厨子は、愛媛県東温市北方の医王寺本堂に安置された厨子で、天文3年(1534年)に造られ、昭和41年(1966年)6月11日に重要文化財に指定された。
厨子は仏像や経巻を納める箱形の仏具を指す。ただし造る側は家具として扱わなかった。屋根の形も、仕口も、比例も、実際の堂宇を建てるときと同じ考え方で組まれている。医王寺本堂内厨子の屋根は入母屋造、入口は正面ではなく妻側に開く妻入、葺き方は薄い割板を重ねるこけら葺である。
間口が一間であることから一間厨子と呼ばれる。東温市観光物産協会の解説によれば、正面103センチ、側面73センチ、棟高289センチ。最後の数字が意外に大きい。棟は見る者の頭より高い位置にあり、覗き込むのではなく見上げることになる。
納められているのは薬師如来。寺号の医王も、薬師如来を「医薬の王」と称することに由来する。
なぜ堂ではなく厨子が指定されたのか
文化庁の国指定文化財等データベースは、医王寺本堂内厨子を員数1基、種別「近世以前/寺院」、指定番号01636として登録している。解説は短い。本尊を納める大型の厨子であり、室町時代末期の天文3年に造られたもので、この時代の建築様式をよく示している点に価値があるという趣旨である。
どの様式かを踏み込んで書いているのは東温市の文化財ページで、医王寺本堂内厨子の技法と様式は禅宗様、すなわち唐様と呼ばれる大陸系の建築様式の特徴をよく表しているとする。禅宗様は鎌倉時代に禅宗とともに日本へ入った。それから二百年を経た室町末期に、伊予の山あいの寺で、大工がこの様式を仏具に適用した。東温市はこれを室町時代の秀作と評価している。
木造の堂は焼け、建て替えられ、時代ごとに手を入れられる。堂の内部に立つ厨子は風雨から守られ、周囲の建物より長く残ることがある。原寸の建築では失われた大工の判断が、縮小された構造物に残る。指定が堂ではなく厨子に付いている理由はここにある。
堂内で何を見るか
禅宗様は全体の輪郭より細部に出る。軒下に密に並ぶ組物、隅から扇状に広がる垂木、上部が尖頭形に反る窓、そして全体に張りつめた曲線。医王寺本堂内厨子の前に立ったら、そのうちどれをこの寸法で採り、どれを省いたのかを追ってみたい。高さ3メートルに満たない造形に建築の作法を落とし込むには取捨が要る。取捨の跡に、造った人間の判断が出る。
まず妻側を見る。妻入だから、そこが正面として設計された面になる。次に屋根に目を移す。こけら葺は檜や杉の薄板を浅く重ねて葺くもので、この大きさなら板の一枚一枚が端から数えられる。
扉が開くことが確認できている機会がひとつある。東温市が伝える医王寺の行事「十七夜」、別名「入船まつり」で、旧暦6月17日に行われ、現在は3年に一度の実施となっている。船に乗せた薬師如来を稚児が引いて境内に入り、仁王門のところで「入波」が唱えられる。庭狩が二人の杖で渡り合ったのち、提婆が薬師如来の功徳を称える。市の記述によれば、その場面で厨子が開き、参列者が如来を拝む。
拝観とアクセス
医王寺は真言宗善通寺派の寺院で、所在地は東温市北方1551。医王寺本堂内厨子について、拝観時間も拝観料も、寺と東温市のいずれの公式案内にも掲出がない(2026年9月4日確認)。厨子は本堂の内部にあるため、拝観は本堂が開いているかどうかに左右される。訪ねる前に寺(089-966-3166)か東温市地域活力創出課観光物産係(089-964-4414)に確認しておきたい。
最寄り駅は伊予鉄道横河原線の終点、横河原駅。医王寺はそこから北東へおよそ2キロで、歩けば30分弱、タクシーなら数分の距離になる。車なら松山自動車道川内インターから向かう。駐車場の案内は公表されていないので、電話の際に併せて聞くとよい。
撮影の可否についても公表された規定はない。指定物件を安置する堂内は撮影を制限している寺院が多いため、許可は当然のものとせず、当日は住職の指示に従いたい。
Q&A
- 医王寺本堂内厨子はいつ造られ、いつ重要文化財に指定されましたか。
- 室町時代末期の天文3年(1534年)の作で、昭和41年(1966年)6月11日に重要文化財に指定されました。指定番号は01636、員数は1基です。
- 医王寺本堂内厨子はどこにありますか。行き方を教えてください。
- 愛媛県東温市北方1551の医王寺本堂に安置されています。最寄り駅は伊予鉄道横河原線の終点・横河原駅で、そこから北東へ約2キロ、徒歩30分弱です。車の場合は松山自動車道川内インターから向かいます。
- 医王寺本堂内厨子は拝観できますか。拝観時間と拝観料は。
- 拝観時間・拝観料を公表した案内は、寺にも東温市にも見当たりません(2026年9月4日確認)。厨子は本堂内にあるため、事前に寺(089-966-3166)または東温市地域活力創出課観光物産係(089-964-4414)へ問い合わせてください。
- 医王寺本堂内厨子の大きさはどれくらいですか。
- 東温市観光物産協会の解説では、正面103センチ、側面73センチ、棟高289センチです。間口が一間であることから一間厨子と呼ばれます。
- 医王寺本堂内厨子の扉が開いて本尊を拝める機会はありますか。
- 東温市の記述によれば、旧暦6月17日に行われ現在は3年に一度実施される「十七夜(入船まつり)」で、提婆が薬師如来の功徳を称える場面に厨子が開かれます。実施年と日程は寺または市にご確認ください。
基本データ
| 名称 | 医王寺本堂内厨子(いおうじほんどうないずし) |
|---|---|
| 所在地 | 愛媛県東温市北方1551 |
| 指定区分 | 重要文化財(建造物)、指定番号01636 |
| 指定年 | 昭和41年(1966年)6月11日 |
| 員数 | 1基 |
| 寸法 | 正面103センチ、側面73センチ、棟高289センチ(東温市観光物産協会による) |
| 所有者 | 医王寺 |
| 公開状況 | 本堂内に安置。拝観時間・拝観料の公表はなく、事前の問い合わせが必要 |
参考文献
- 文化庁 国指定文化財等データベース「医王寺本堂内厨子」
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/102/3393
- 東温市「医王寺本堂内厨子」
- https://www.city.toon.ehime.jp/soshiki/13/1273.html
- 東温市「医王寺十七夜」
- https://www.city.toon.ehime.jp/soshiki/13/6139.html
- 東温市「東温市の文化財」
- https://www.city.toon.ehime.jp/soshiki/23/2007.html
- 東温市観光物産協会「医王寺」
- https://toon-kanko.jp/iouji/
- 愛媛県仏教会「医王寺」
- https://ehimebukyoukai.org/membertemple/
最終更新日: 2026.09.03