「足利尊氏の墓」と呼ばれてきた宝篋印塔

浄土寺宝篋印塔は、広島県尾道市東久保町の浄土寺境内の南側に立つ南北朝時代(14世紀)の石造宝篋印塔で、昭和36年(1961年)3月23日に重要文化財に指定された。

浄土寺には同じ名称で指定された宝篋印塔が2基あり、このページで扱うのは南側の1基である。広島県教育委員会の解説は、この浄土寺宝篋印塔が「足利尊氏の墓」と称されてきたと記す。浄土寺の宝物一覧でも、2基のうち一方が「宝篋印塔(伝尊氏塔)」として挙げられている。

ただし、これはあくまで伝承である。刻銘による年紀はなく、文化庁のデータベースは時代を室町前期、西暦の幅を1333年から1392年とする。尊氏と浄土寺の結びつきは確かで、建武3年(1336年)に尊氏は九州へ下る途中この寺に船を寄せて戦勝を祈り、同じ年の5月に東へ上る際には本尊の前に参籠している。そうした縁が、南側の石塔に尊氏の名を重ねてきたと考えられる。

中国地方の南北朝期を代表する宝篋印塔

広島県教育委員会は、この浄土寺宝篋印塔を相輪を完備した南北朝時代の中国地方における宝篋印塔の代表作と評価している。高さは1.9メートルで、境内東端に立つ貞和4年銘の宝篋印塔(3.2メートル)よりずっと小さいが、評価の中心は大きさではなく、形の完成度にある。

解説は、この塔を非常に洗練された姿と述べ、各部分の彫りと釣り合いがよくとれた引き締まった堅実な姿だとする。具体的には、最下層の反花座に刻まれた複合の蓮弁と、基礎の側面の格狭間が大きく見事である。塔身には金剛界四仏を種字で配し、笠の隅飾はやや外に傾いて、二弧の縁取りの内側に八方天の種字を表す。

もう1つ重要なのは、頂部の相輪が欠けずに残っていることである。石造の相輪は細長く折れやすい部分で、失われたり後の部材に替わったりした塔も少なくない。塔の頂まで当初の構成が揃っていることが、代表作とされる理由の一つになっている。

浄土寺宝篋印塔の見どころ

まず足元の反花座を見たい。蓮の花弁を下向きに並べた台座で、この浄土寺宝篋印塔では、広島県教育委員会が「複合の蓮弁」と呼ぶ形に刻まれている。その上の基礎の格狭間は、塔の高さに比べて大きく取られている。

次に笠の四隅を見上げる。隅飾がわずかに外へ開いているのが分かり、その内側に八方天の種字が彫られている。最後に相輪を下から頂まで目で追うと、欠けのない1基の宝篋印塔の全体像がつかめる。

時間があれば、境内東端の貞和4年銘の浄土寺宝篋印塔にも足を運びたい。あちらは基礎と塔身のあいだに受台を挟む地方色の強い形で、同じ時代の2基の違いがよく分かる。

浄土寺宝篋印塔の見学方法

浄土寺宝篋印塔は境内の南側の屋外に立ち、境内に入れる時間であれば自由に見学できる。料金はかからない。

石に触れたり寄りかかったりせず、少し離れた位置から観察したい。境内への行き方と拝観の全体は浄土寺のページにまとめてある。

Q&A

Q浄土寺宝篋印塔は本当に足利尊氏の墓ですか?
A「足利尊氏の墓」と称されてきたという伝承で、刻銘などの確かな証拠はありません。尊氏が建武3年(1336年)に浄土寺で戦勝を祈ったことは記録に残っています。
Q南側の浄土寺宝篋印塔はいつ造られましたか?
A年紀の刻銘はなく、文化庁データベースは南北朝時代にあたる1333年から1392年の間としています。
Q浄土寺宝篋印塔(南側)が重要文化財とされた理由は何ですか?
A相輪まで完備し、各部の釣り合いがよい洗練された姿で、南北朝時代の中国地方を代表する宝篋印塔と評価されています。昭和36年(1961年)に指定されました。
Q浄土寺の2基の宝篋印塔はどう違いますか?
A東端の塔は貞和4年(1348年)の銘をもち高さ3.2メートルで、受台を挟む地方色の強い形です。南側の塔は高さ1.9メートルで、相輪が完備した引き締まった姿が評価されています。
Q浄土寺宝篋印塔の見学は無料ですか?
A無料です。境内の南側の屋外にあり、境内に入れる時間であれば自由に見られます。

基本情報

名称浄土寺宝篋印塔(じょうどじほうきょういんとう)/境内南側の1基
所在地広島県尾道市東久保町
指定区分重要文化財(建造物)
指定年昭和36年(1961年)3月23日
員数1基
寸法石造宝篋印塔。高さ1.9メートル(広島県教育委員会による)
所有者浄土寺
公開状況境内の屋外にあり、見学自由(無料)

参考文献

文化庁 国指定文化財等データベース 浄土寺宝篋印塔(昭和36年指定)
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/102/3136
文化遺産オンライン 浄土寺宝篋印塔
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/190973
広島県教育委員会 広島県の文化財(尾道市)
https://www.pref.hiroshima.lg.jp/uploaded/attachment/655404.pdf
大本山 浄土寺 宝物一覧
https://ermjp.com/j/temple/houmotu/list.htm
大本山 浄土寺 浄土寺の縁起
https://ermjp.com/j/temple/histry/engi.htm

最終更新日: 2026.09.27