森尾の大庄屋が受け継いだ屋敷
平尾家住宅は、兵庫県豊岡市森尾にある大庄屋平尾家の屋敷で、寛政2年(1790年)の新蔵や明治29年(1896年)の主屋をはじめとする建物と門・塀・石垣・石橋の43件が、平成20年(2008年)3月7日に国の登録有形文化財に登録された。読みは「ひらおけじゅうたく」。江戸時代後期から昭和前期にかけて建て継がれた屋敷構えが、ほぼそのままの形で残っている。
平尾家は江戸時代に大庄屋を務めた家で、但馬でも指折りの大地主として知られた。屋敷は森尾の集落のほぼ中央にあり、約4,000平方メートルの敷地に大小およそ20の建物が点在する。1か所の屋敷で43件という登録数は、兵庫県内でも有数とされる。
主屋は豊岡の宮大工の手になると伝えられ、石州の赤瓦を使った豪壮な屋根をもつ。屋敷は兵庫県の景観条例にもとづく景観形成重要建造物等にも位置づけられている。
森尾川が南北に分ける屋敷地
平尾家住宅のいちばんの特徴は、敷地の中を森尾川が流れ、屋敷地を南北に分けていることである。川の両岸には高さ約1.5メートル、総延長148メートルの石垣が築かれ、二つの石橋が南北を結ぶ。長屋門から主屋へ向かう石橋には轍の跡が続き、その西約10メートルには通用路として使われた下の石橋が架かる。石橋の西、右岸の石垣を切り欠いた場所には、屋根を架けた川井戸屋があり、かつてはここで洗い物や洗濯をした。
川の南側は屋敷の表である。通りから少し奥まって長屋門が南面し、その西に道具蔵と下の蔵、東南に米蔵が並んで、白漆喰の壁が通りに沿って続く。米蔵の東には大工小屋と井戸屋、給水塔が集まる。南側の敷地の東端には東の門、西端には西の門があり、長屋門脇の蔵からそれぞれの門まで、総延長58メートルの外塀が通りを縁取る。
川の北側が住まいの中心で、屋敷地のほぼ中央に主屋が南面して建つ。主屋の東には蔵前を介して宝蔵が続き、その東に接客用の離れがあって、離れの東から北には奥の庭が広がる。主屋の北には隠居屋、背面には新蔵と塩噌蔵が建ち、西北に陶器蔵と西蔵、その間に石組みの水溜がある。主屋の西南には供待、西には畜舎、敷地の北端には戌亥蔵、西北隅にはたつ小屋と堆肥舎、薪小屋がコの字形に並び、農作業の場をつくっている。
塀と門が仕切る表と奥
平尾家住宅の敷地は、幾重もの塀と門で用途ごとに区切られている。主屋の式台玄関の前には中門と板塀が立ち、庭南塀が川沿いへ折れて主屋の庭を囲む。離れの玄関の南、川に面して御成門が開き、両袖から川沿いに27メートルの塀が延びる。離れの西と東には仕切塀と門があって、主屋の庭、離れの正面、奥の庭をそれぞれ分けている。
奥の庭の東と北は板塀で囲われ、北塀の西端から隠居屋へ向かって隠居屋東塀が続く。宝蔵の北面からは潜り門をもつ仕切塀が延び、奥の庭と隠居屋の庭を分ける。主屋の西面では仕切塀が畜舎との間をふさぎ、陶器蔵や台所のある内向きの暮らしの場と、供待や作業場のある外向きの空間とを切り分ける。塀の仕上げも、通りや客を向く側を白漆喰、内側を中塗りや板張りとするなど、見られる面を意識して使い分けられている。
登録有形文化財43件と建物の年代
平尾家住宅で登録されたのは、主屋・宝蔵・離れ・隠居屋・新蔵・塩噌蔵・陶器蔵・陶器蔵蔵前及び裏門・西蔵・水溜・供待・畜舎・戌亥蔵・たつ小屋・堆肥舎・薪小屋・灰小屋・ポンプ小屋及び板塀・祠・石垣・石橋・下の石橋・川井戸屋・長屋門・道具蔵・下の蔵・米蔵・大工小屋・井戸屋・給水塔・東の門・西の門・外塀・中門及び板塀・庭南塀・御成門及び塀・離れ西仕切塀及び門・離れ東仕切塀及び潜り門・離れ東塀・離れ北塀及び門・隠居屋東塀及び門・宝蔵北仕切塀及び潜り門・主屋西仕切塀の43件で、登録番号は28-0304から28-0346まで続く。登録の基準は、主屋が「造形の規範となっているもの」、ほかの42件が「国土の歴史的景観に寄与しているもの」である。
文化庁の記録で年代を追うと、江戸時代のものが新蔵・道具蔵・離れ・西蔵・塩噌蔵・供待・長屋門・大工小屋・石垣・石橋・下の石橋・川井戸屋の12件、明治時代のものが主屋・陶器蔵・下の蔵・隠居屋など20件、昭和前期のものが宝蔵・薪小屋・戌亥蔵・給水塔など11件になる。年代のはっきりしたものでは、新蔵の寛政2年(1790年)がもっとも古く、道具蔵が文化2年(1805年)、離れが文政9年(1826年)、西蔵が天保4年(1833年)と続く。
明治に入ると、陶器蔵(1887年)、下の蔵(1893年)、主屋(1896年)と中心の建物が整えられ、昭和前期には宝蔵(1931年)や薪小屋(1932年)、鉄骨の給水塔が加わった。道具蔵と下の蔵は昭和前期に、塩噌蔵は明治中期に今の場所へ移されている。江戸時代の蔵や石垣を骨格として残しながら、代ごとに建物を足し、移し、改めてきた過程が、43件の年代の重なりとして読み取れる。
見学について
平尾家住宅は個人の住まいで、原則として公開されていない。敷地への立ち入りや建物内部の見学はできず、定期的な一般公開の案内も見当たらない(2026年10月時点)。
外から見られるのは、通りに面した長屋門の構えと、その左右に続く道具蔵・下の蔵・米蔵の白壁、外塀、敷地の両端に立つ東の門と西の門に限られる。いずれも住人の暮らしの場に接しているので、門前に長く立ち止まったり塀越しにのぞき込んだりせず、通りすがりに眺める程度にとどめたい。撮影する場合も、住人や通行の妨げにならないよう配慮が必要である。
アクセス
平尾家住宅のある森尾は、JR山陰本線の豊岡駅から南東へ直線でおよそ5キロの集落である。駅から歩くには距離があるので、車かタクシーを使うのが現実的である。見学施設ではないため、来訪者向けの駐車場は用意されていない。集落内の道は狭いので、車を停める場所には注意したい。
参考文献
- 国指定文化財等データベース(文化庁)— 平尾家住宅主屋
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00006881
- 国指定文化財等データベース(文化庁)— 平尾家住宅新蔵
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00006885
- 国指定文化財等データベース(文化庁)— 平尾家住宅石垣
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00006899
- 国指定文化財等データベース(文化庁)— 平尾家住宅外塀
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00006912
- 文化遺産オンライン — 平尾家住宅主屋
- https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/186783
- 但馬の百科事典(たんしん地域振興基金)— 平尾家住宅
- https://tanshin-kikin.jp/tajima/568
- ザ・たじま 但馬事典(但馬ふるさとづくり協会)— 平尾家住宅
- https://the-tajima.com/spot/393/
最終更新日: 2026.10.02
基本情報
| 名称 | 平尾家住宅 |
|---|---|
| 所在地 | 兵庫県豊岡市森尾字安藤958 |
| 指定 | 登録有形文化財 43件 |
| 座標 | 35.52029, 134.86837 |