重要文化財「延暦寺」11棟とは

重要文化財の延暦寺は、滋賀県大津市坂本本町と坂本4丁目にまたがる天台宗総本山延暦寺の堂舎のうち、江戸時代前期から中期に建てられた文殊楼・浄土院伝教大師御廟・四季講堂・慈眼堂など11棟を一括した指定で、平成28年(2016年)7月25日に重要文化財に指定された。比叡山上の東塔・西塔・横川の三塔と、山麓の門前町坂本に散らばる建物を「延暦寺」の名称でひとまとめにしている点に特徴がある。

延暦寺は、最澄が延暦7年(788年)に開いた天台宗の総本山である。のちに円仁・円珍らが山上の伽藍を整え、天禄3年(972年)に良源が横川を再整備して、東塔・西塔・横川の三塔の体制ができあがった。

元亀2年(1571年)、織田信長の焼き討ちで山上の堂舎は壊滅した。天正12年(1584年)に豊臣秀吉が伽藍の再興を許し、慶長12年(1607年)に東塔の南光坊に入った天海が復興を率いて、寛永17年(1640年)に根本中堂が再建される。天海は寛永20年(1643年)に没したが、その後の半世紀で主要な堂が整えられた。今回の11棟は、この江戸時代前期の再興の後半にあたる17世紀中ごろから後半にかけての建物である。

国宝の根本中堂や、転法輪堂・常行堂及び法華堂などは、それぞれ別の名称で先に指定されている。この延暦寺の指定は、それらに続く時期の再興建築を三塔と坂本にわたって拾い上げたもので、11棟のうち9棟は国の指定より前に滋賀県の有形文化財になっていた。

11棟の内訳と指定の価値

東塔の文殊楼・山王社・阿弥陀堂鐘楼

文殊楼は根本中堂の正面、東の台地に建つ二階建ての門である。形式は三間一戸二階二重門、入母屋造、銅板葺。円仁が貞観8年(866年)に創建した常坐三昧院に起こり、現在の建物は寛文8年(1668年)の火災の後に再建された。上層の内部には須弥壇を置いて文殊菩薩像を安置しており、門でありながら仏堂の構えをもつ。外部は赤く塗り、上層の組物の木口を白く、花頭窓を黒漆で仕上げる。

山王社は、最澄が構想した九院の一つ定心院の鎮守社と伝え、慶安2年(1649年)の建立とみられる。三間社流造で、庇を前室として囲むのは滋賀県内の神社本殿に多い形式である。文化庁の解説は、延暦寺山内に残る鎮守社として規模が最大と記す。

阿弥陀堂鐘楼は、寛永11年(1634年)ごろ坂本の東照宮境内に建てられ、昭和38年(1963年)に東照宮本地堂を山上へ移して大講堂とした際に一緒に移された。柱を内側へ傾けて立てる内転びの吹放しの鐘楼で、細部は大講堂や日吉大社の東照宮社殿によく似る。

東塔の浄土院三棟

浄土院は開祖最澄の廟所である。延暦寺によれば、最澄の遺骸を円仁が仁寿4年(854年)にこの地へ移して安置した。東塔と西塔の境の尾根上にあり、南を向く境内に拝殿、唐門、伝教大師御廟を一直線に並べる。

伝教大師御廟は寛文2年(1662年)の建立で、方3間、宝形造、瓦棒銅板葺。外まわりの組物を尾垂木付きの三手先とし、隅の尾垂木と化粧隅木の間には猿の彫刻を挟む。柱や組物を赤、扉と花頭窓の框を黒漆、連子を緑青で塗り分け、全体を濃い禅宗様でまとめている。唐門は寛文6年(1666年)までに建てられた一間一戸の向唐門で、破風に兎毛通しを飾る。拝殿は寛文2年(1662年)建立の桁行5間・梁間3間の入母屋造で、内部は柱を立てず虹梁4本を渡した広い一室とする。正面の軒唐破風の蟇股には竹に虎を彫り、正背面両端の蔀の下段の内側には狩野永真による獅子が描かれている。

西塔の西塔鐘楼

西塔鐘楼は貞享年間(1684〜1688年)の建立とみられる。1間四方の切妻造、銅板葺で、本柱の内側に脇柱を添えて立てる。全体を赤く塗り、絵様に墨を差す。

横川の四季講堂・元三大師御廟拝殿・横川鐘楼

四季講堂は良源(元三大師)を祀る堂で、春夏秋冬に法華経を講じたことに名が由来し、元三大師堂とも呼ばれる。承応元年(1652年)の建立で、桁行5間・梁間4間の入母屋造、瓦棒銅板葺。内陣は漆塗の柱に金襴巻を描き、長押に雲と龍、小壁に鳳凰や天女、格天井の格間に金地の文様を描く濃密な装飾で、伝統的な平面に近世的な華やかさを重ねている。

元三大師御廟拝殿は延宝年間(1673〜1680年)の建立とみられ、寄棟造に向拝1間を付けた簡素な拝所である。奥の御廟は石の瑞垣で囲まれ、瑞垣と石鳥居が附として指定に含まれる。横川鐘楼は貞享4年(1687年)の建立で、西塔鐘楼とほぼ同じ規模・形式ながら、屋根は桟瓦葺で、虹梁や木鼻の絵様が異なる。

坂本の慈眼堂

慈眼堂は、比叡山を復興させた天海(慈眼大師)を祀る堂で、坂本の滋賀院門跡の南西に建つ。正保3年(1646年)の建立で、方3間、宝形造、桟瓦葺。堂内は石敷で、来迎壁の前に禅宗様の須弥壇を置き、厨子に慈眼大師像を安置する。柱や梁の寸法が大きく、重厚な禅宗様の仏殿である。

一括して指定された理由

文化庁は、開祖最澄の廟所、中興の祖良源の廟所と講堂、復興の立役者天海の堂、修行の道場を兼ねた文殊楼など、延暦寺の信仰の要となる場所に建つ建物が、根本中堂の再建に続いて17世紀後期にそろって整えられたことを評価している。11棟はいずれも優れた意匠を備え、比叡山全域における江戸時代前期の再興の様子を示すとして指定された。

見どころ ― 三塔と坂本に散らばる11棟を巡る

東塔では、根本中堂の前から石段を上がると文殊楼の前に出る。見上げると上層の組物の白い木口が赤い軸部に点々と並び、黒い花頭窓が際立つ。山王社は参道の石段の下に東を向いて建ち、前室を囲った流造の形がよく分かる。

浄土院は東塔から西塔へ向かう途中の尾根にある。延暦寺では、十二年籠山の行に入った僧が、今も生身の最澄に仕えるように日々奉仕している。唐門越しに御廟の宝形屋根と頂部の宝珠が見え、拝殿・唐門・御廟が一直線に並ぶ構えを参道から確かめられる。

西塔鐘楼と横川鐘楼は、ほぼ同じ形の鐘楼を見比べられる組み合わせである。西塔は赤く塗った銅板葺、横川は桟瓦葺で、屋根と色の違いがまず目に入る。そのうえで虹梁の端の絵様を見比べると、同じ時期の大工仕事の手の違いが分かる。

横川の四季講堂は、延暦寺がおみくじ発祥の地として案内している堂で、厄除けの角大師(つのだいし)の護符を授与している。山麓の慈眼堂は、坂本の石垣の町並みのなかにあり、山上の堂とは雰囲気がまったく違う。

見学方法 ― 11棟の所在と見学の条件

11棟のうち10棟は山上の三塔にある。東塔に文殊楼・山王社・阿弥陀堂鐘楼、東塔と西塔の境の尾根に浄土院の3棟、西塔に西塔鐘楼、横川に四季講堂・元三大師御廟拝殿・横川鐘楼が建つ。山上の各棟は各地区の巡拝時間内に外観を見られ、東塔・西塔・横川共通券が必要である。

文殊楼の楼上は通常の巡拝では公開されておらず、延暦寺の見学会で特別拝観として案内された例がある。浄土院は十二年籠山の僧が日々奉仕する場で、唐門の奥や各堂の内部に入れるかどうかは現地の案内に従いたい。撮影の可否も公式案内に明記がないため、現地の掲示に従うこと。

慈眼堂は山麓の坂本、滋賀院門跡の南西にあり、山上とは別に訪ねる。三塔の巡り方、巡拝時間・料金、アクセスは延暦寺のページにまとめてある。

Q&A

Q重要文化財「延暦寺」にはどの建物が含まれますか?
A文殊楼、山王社、浄土院伝教大師御廟、浄土院唐門、浄土院拝殿、阿弥陀堂鐘楼、西塔鐘楼、四季講堂、元三大師御廟拝殿、横川鐘楼、慈眼堂の11棟です。平成28年(2016年)に一括して指定されました。
Q延暦寺の根本中堂はこの11棟に含まれますか?
A含まれません。根本中堂は別に指定された国宝で、根本中堂廻廊や常行堂及び法華堂なども、それぞれ別の名称で指定されています。
Q延暦寺の11棟はそれぞれどの地区にありますか?
A東塔に文殊楼・山王社・阿弥陀堂鐘楼、東塔と西塔の境に浄土院の3棟、西塔に西塔鐘楼、横川に四季講堂・元三大師御廟拝殿・横川鐘楼があり、慈眼堂だけが山麓の坂本にあります。
Q延暦寺の浄土院とはどんな場所ですか?
A開祖最澄の廟所です。拝殿・唐門・伝教大師御廟が一直線に並び、十二年籠山の僧が日々奉仕しています。東塔と西塔の間の尾根にあります。
Q延暦寺の四季講堂はおみくじとどんな関係がありますか?
A四季講堂は元三大師良源を祀る堂で、延暦寺は良源が考案したと伝わるおみくじの発祥の地として案内しています。厄除けの角大師の護符も授与しています。

基本情報

名称延暦寺(文殊楼、山王社、浄土院伝教大師御廟、浄土院唐門、浄土院拝殿、阿弥陀堂鐘楼、西塔鐘楼、四季講堂、元三大師御廟拝殿、横川鐘楼、慈眼堂)
所在地滋賀県大津市坂本本町、同坂本4丁目
指定区分重要文化財(建造物)
指定年平成28年(2016年)7月25日
員数11棟(附 厨子2基、棟札6枚、御廟瑞垣1棟、鳥居1基)
寸法棟ごとに異なる(最大は浄土院拝殿と四季講堂の桁行5間)
所有者延暦寺
公開状況山上の各棟は巡拝時間内に外観見学可(共通券が必要)。慈眼堂は山麓の坂本に所在

参考文献

国指定文化財等データベース「延暦寺」文殊楼・詳細解説(文化庁)
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/102/00004892
国指定文化財等データベース「延暦寺」阿弥陀堂鐘楼(文化庁)
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/102/00004897
国指定文化財等データベース「延暦寺」浄土院伝教大師御廟(文化庁)
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/102/00004894
国指定文化財等データベース「延暦寺」四季講堂(文化庁)
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/102/00004899
国指定文化財等データベース「延暦寺」元三大師御廟拝殿(文化庁)
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/102/00004900
国指定文化財等データベース「延暦寺」慈眼堂(文化庁)
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/102/00004902
延暦寺 文殊楼(大津市 文化財保護課)
https://www.city.otsu.lg.jp/bz/a/03/15/60692.html
延暦寺 四季講堂(大津市 文化財保護課)
https://www.city.otsu.lg.jp/bz/a/03/15/60713.html
延暦寺 阿弥陀堂 鐘楼(大津市 文化財保護課)
https://www.city.otsu.lg.jp/bz/a/03/15/60716.html
境内の概要(天台宗総本山 比叡山延暦寺)
https://www.hieizan.or.jp/grounds/overview.html
東塔(天台宗総本山 比叡山延暦寺)
https://www.hieizan.or.jp/grounds/toudou.html
西塔(天台宗総本山 比叡山延暦寺)
https://www.hieizan.or.jp/grounds/saitou.html
横川(天台宗総本山 比叡山延暦寺)
https://www.hieizan.or.jp/grounds/yokawa.html
霊場・山麓寺院(天台宗総本山 比叡山延暦寺)
https://www.hieizan.or.jp/grounds/shrine.html
比叡探訪(天台宗総本山 比叡山延暦寺)
https://www.hieizan.or.jp/experience/tanbou.html
巡拝時間・料金(天台宗総本山 比叡山延暦寺)
https://www.hieizan.or.jp/tickets/
交通案内(天台宗総本山 比叡山延暦寺)
https://www.hieizan.or.jp/access/

最終更新日: 2026.09.25

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